ドクター・ジョンのアルバムは30枚ほど持っているが、中でも一番聴いた回数が多いのはこの『Duke Elegant』であろう。アルバム・ジャケットに「PERFORMING THE MUSIC OF DUKE ELLINGTON」とあるように、かのデューク・エリントンの曲のカヴァー・アルバムである。初めて聴いたときの印象は、「カッコいいアルバムだなあ」。ドラムス、ベース、ギター、ピアノ(オルガン)というシンプルな構成(一部サックスやパーカッションが参加している)で、バックの締まった演奏の上でピアノの、ギターの、そしてサックスの自在なアドリブが堪能できるアルバムである。
アルバムの印象は……
全体にファンキーな仕上がりになっているのはドクター・ジョンの持ち味なので当然といえば当然だが、「Caravan」「Mood Indigo」「It Don’t Mean a Thing(If It Ain’t Got That Swing)」(スウィングしなけりゃ意味ないね)などの有名曲に大胆な解釈を加え、それらの曲のオーソドックスな演奏とはまったく印象の違う演奏を披露してくれる。
私はそれほどジャズを熱心に聴いておらず、また詳しいわけではないので、オープニング・ナンバーの「On the Wrong Side of the Railroad Tracks」、続く「I’m Gonna Go Fishin’」、そして最後の「Flaming Sword」の3曲はこのアルバムで初めて耳にした。このアルバムの性質上、オーソドックスな演奏とかけ離れたアレンジである可能性もあるが、3曲とも実に魅力的である。まずオープニング曲「On the Wrong~」がファンキーでソウルフルなムードたっぷり。この手の雰囲気が大好きで、思わずワイルド・ターキーの瓶に手を伸ばしたくなる私としては、開始早々ノックアウトされてしまう。次の「I’m Gonna~」での聴きモノは、チョッパーを多用したベースの「スウィング」とワウの聴いたギターのアドリブ、さらにエンディングのたどたどしいコーラスの微笑ましさである。バックのロウワー9の連中は、楽器の演奏は非常に上手いが、歌は得意でないらしい。さらに上記のような有名曲が並んでゆき、ラストの「Flaming Sword」でちょっとした「奇蹟」が起こる(大袈裟か)。
直前の2曲「Things Ain’t What They Used to Be」「Caravan」が、比較的ハードなアレンジであることもあってか、ラスト・チューンのイントロが流れ始めると、一種爽快な解放感を感じるのだ。ポップなメロディーと、相変わらずファンキーでタイトなバックの演奏、そしてドクター・ジョンの、ボールが転がり跳ねるような自由で躍動感のあるアドリブ。アルバムを聴き終わったときには、なんだかとても幸福な音楽体験をしたような余韻に浸れる。
他人の曲も自家薬籠中のものにできるのはレベルの高い音楽家だと思ふ
ドクター・ジョンはこれ以前にも、1989年のグラミー賞受賞作『In a Sentimental Mood』、1995年の『Afterglow』といったスタンダードのカヴァー集でデューク・エリントンの曲を何曲かカヴァーしている。しかしこのアルバムで見られるほど思い切った楽曲解釈を示したわけではなかった。稀代の歌姫エラ・フィッツジェラルドがデューク・エリントンとそのオーケストラをバックに従えて作ったアルバムで、「Duke Elegant」全13曲のうち9曲が共通するエラ・フィッツジェラルドのソングブック「Sings the Duke Ellington Song Book」(これも素晴らしい)と聴き比べてみると、ドクター・ジョンがエリントンの曲を完全に自分のモノとして消化し、その上で自分の個性を存分に発揮していることが解る。彼にはそのほかにジョニー・マーサーのソングブック「Mercernary」(2006)、ルイ・アームストロングのレパートリーを演奏した「Ske-Dat-De-Dat: The Spirit Of Satch」(2014)もあり、特に後者は聴いていてとても楽しい気分になるアルバムだ。