The Eagles 『On the Border』(1974)

 世界的大ヒット『One of These Nights』『Hotel California』の陰に隠れて、あまり知名度は高くないかもしれないが、イーグルスの3枚目のアルバム『On the Border』はなかなか聴き応えのある佳作である。「Desperado」「Tequila Sunrise」といった抜群の曲(特に後者は彼らの曲の中で、私の一番好きな曲である)を収録しながらいまひとつ売れなかった前作『Desperado』の後を承けて、よりロック色の強いアルバムを志向して(つまりロックの時代だったのである)、プロデューサーにビル・シムジクを迎えて制作したということだ。

 彼ららしい軽快なロックンロール「Already Gone」で始まる『On the Border』では、「Midnight Flyer」「My Man」「Is It True」、そしてトム・ウェイツの名曲のカバー「Ol’ 55」などのナンバーでデビュー以来の持ち味である美しいコーラスと豊かな叙情性を堪能できるが、何といっても出色なのはアルバム・タイトル・ナンバー「On the Border」と「Good Day in Hell」の2曲であろう。「On the Border」では『Desperado』の「Doolin-Dalton」の世界を引き継ぐような一攫千金を夢みる男を謳いながら、バンドのその後の方向性を暗示するがごとぎ凝った構成のハード・ロックを聴かせてくれる。そして「Good Day in Hell」。アルバム制作中に参加したドン・フェルダーの、ヘヴィーでブルージー、ダイナミックでありながら正確な音程のスライド・ギターが炸裂する、このアルバム中随一の聴きモノである。ドン・フェルダーは後に「Hotel California」を作曲し、そこでも端正な演奏を聴かせてくれるが、この「Good Day in Hell」での演奏の質はそれ以上で、もしかすると彼のベスト・プレイなのではないか。さすがデュアン・オールマンの弟子である。

 この2曲を聴くと、どうやらこのアルバムが彼らにとって音楽的な転機となったのではないかと思われる。単にハード・ロック調の曲をやったから、というわけではない(デビュー・アルバムにも「Witchy Woman」というハード・ロック調の曲はあった)。後の『Hotel California』で顕著に見られる、1曲1曲を緻密に構成・アレンジして正確無比な演奏でそれを表現するという姿勢は、特にこの2曲にその萌芽が見られるのではないか、という意味だ。それにしても1971年のデビューから僅か5年後の1976年、『Hotel California』であれほどまでに完成度の高い音楽を披露したのだから、作曲能力も含めてその音楽的成長の速さは尋常ではない。若々しい感性の叙情的な曲を歌うカントリー・ロック・バンドが、いつの間にかヘヴィー・ナンバーもお手の物、ハードな文明批評的な視点も兼ね備えた時代を代表するバンドに化けていたのだから恐れ入った話である。まあ、その完成度の高さがかえって禍したのか、難産の末発表された次作『The Long Run』が散漫な凡作だったこともあって、バンドは空中分解してしまうのだが(何やらメンバー間の確執があったという話だが、そんな三流芸能記事のごとき情報は私にとっては意味がない。また90年代に再結成して再び大ヒットを飛ばしたようだが、実は私は聴いていない。このバンドは70年代最高のロック・バンドのひとつであり、その時代ならではの傑作を残した伝説である。時宜を失した再結成バンドになど用はない)。

 アルバムの最後を飾るのはドン・ヘンリーとグレン・フライのコンビの名曲「The Best of My Love」である。落ち着いた、美しい旋律とドン・ヘンリーの優しい歌唱。良い気分だ。