オルタブックス『天皇の伝説』(1997)

 何のきっかけで読んだのかもう憶えていないが、25年ほど前に読んだ「楽しい本」が『天皇の伝説』というムックだ。「オルタブックス」という叢書の一冊で、巻末の宣伝を見ると「オモチャとドラッグと電脳の世紀末 オルタブックス創刊!!」という見出しの下に『90年代非本流文化の全貌を示す、リンクするキーワード事典!オルタカルチャー日本版』とか『警察の警察による警察のための交通取り締まり』『Super Cub愛蔵版』などのタイトルが並んでいる。現在でもネットで検索すると『天皇の伝説』とともに『ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門』だの『スマートドラッグ生活入門』だの『有害図書の世界』などといった書名が引っかかる(現在ではもちろんほとんどが品切れで注文不可)。この「オルタブックス」というのは、要するに当時流行っていたサブカルチャー分野の叢書らしい。

 『天皇の伝説』は、いかにもそういう叢書の一巻らしく、アヤシい面白さに溢れた本である。収録されている記事のタイトルだけを並べてみても、「パート1 教科書が教えない歴史」には「日本近代史最大のタブー 明治天皇は二人いた!」「大室天皇家訪問記」、「パート2 妖しい人たち」には「明治天皇外戚 中山家の人々」「マンガ〝華〟の女たち」「サギの宮と呼ばれた女 〝御落胤界のスーパースター〟増田きぬの戦後史」、「パート3 御落胤の人生」には「大本教教祖・出口王仁三郎『御落胤』伝説」「『熊沢天皇』の末裔を訪ねて」などなど、以下は煩雑なので省略するが、私の大好きなヨタ話(馬鹿にしているわけではないよ。「歴史的事実」の物語性=虚構性は重々承知)満載の本なのである。中でも思い出深いのは、皇室の関係者を騙って詐欺を繰り返す人物を扱った「パート2 妖しい人たち」のなかで紹介される自称明治天皇外戚のNという人物で、いくつもの詐欺事件に関わっていたらしい。当人と周囲の人物へのインタビューも載っているのだが、辻褄の合わないことを語りつづけるご当人はもとより、支離滅裂な放言を繰り返す僧侶(?)が登場したり、第七十九代目であるような宣伝をしていながら自分が始めた新興宗教であることをあっさり認めてしまう教祖が得々と新興宗教経営の極意を喋ったりと実に楽しい読物だった。当時授業中のネタの一つとして、そのような人物の存在を生徒に語ったところ、その週の内にこのN氏、警察に検挙されてニュースになっていた。翌週の授業の際、生徒が感心した顔で「本当だったんですね」と言っていた。懐かしい思い出だ。

 1997年出版のこの本が売れたのかどうか、わたしは知らない。ただ数年後に版元も変わって、オンデマンド出版で再版されていたが、なんとパート2がすべて削除され、「パート4 不思議な古代史」「パート5 天皇の伝説」に収載されていた記事もその過半が削除された、半分以下の厚さの本になっていた。パート2が削除されたのは、あるいはN氏の逮捕などの影響があったのかもしれないが、他の記事の削除は何が原因だったのだろうか。再販にあたって各記事の筆者の許可が得られなかったのであろうか。削除された記事の内容を考えると、あるいは何か見えない力が……(以下自粛)。