Dave Mason 『Certified Live』(1976年)

 このライブ・アルバム、『情念』などという頓珍漢な邦題がつけられているが、もしかしたらそのせいで日本ではあまり有名ではないのかもしれない。原題は「Certified Live」、つまり「極め付きライブ」である。「極め付き」とは、もともと書や骨董の類に権威ある鑑定者がつけた「極書(きわめがき)」が付いているという意味で、「品質・内容について保証された」ものであるということだ。このアルバムではそのタイトルに恥じない、文字どおり「極め付き」の演奏を楽しめる。

 オープニング・ナンバー「Feelin’ Alright」を聴けばすぐ理解できるだろうが、ファンキーでわくわくするような躍動感に溢れた演奏は、このバンドの技倆の高さを充分に示している。続くトラフィック(デイヴ・メイスンが以前所属していたバンド)時代の「Pearly Queen」では、ツイン・ギターによるスピード感のあるソロの掛合いが聴きモノである。そして4曲目、ボブ・ディランの「All Along the Watchtower(見張り塔からずっと)」だが、これはいままで聴いたこの曲のカヴァーの中でも最もカッコいいアレンジだ。

 B面(ヲヂさんの世代はアナログ・レコードで聴いていた)に移ると、一転してアコースティック・ギターとコーラスを前面に押し立てた曲が続く。ランディ・マイズナー(イーグルス)の「Take It to the Limit」、メイスンの代表曲のひとつ「Give Me a Reason Why」の「啼き」、「Every Woman」の叙情味は一聴の価値があるだろう。以下、C面D面の一々の曲の紹介は省略するが、最後の「Gimme Some Lovin’」などオリジナルよりエキサイティングで格好良く、聴き終わって何か得をしたような気分になる。そして実感するのは、ロック・バンドの演奏のキモはなんと言ってもドラムスとベースなのだということだ。このアルバムのジェラルド・ジョンソン(b)とリック・ジェガー(d)のコンビは実に息が合っていて、うねるような、ダイナミックなドライブを見事に演出して見せてくれている。

 日本ではその実力のわりにはあまり有名でなかったらしいが、デイヴ・メイスンは優れた作曲家・ギタリストであり、このライブ・アルバムは、彼の音楽を知らない人が聴いても、楽曲の良さと演奏の素晴らしさを堪能できると思う。騙されたと思って一度聴くべし。