Robert Jr. Lockwood & the Aces 『Blues Live』(1974年)

 その昔、十数年間にわたって「ブルース・フェスティヴァル」という催しが日本で毎年開催されていて、数は多くはないが熱心な日本のブルース・ファンを喜ばせていた。その記念すべき第1回のゲストとして招かれたのがロバート・Jr.ロックウッド&ジ・エイシズである。今回取り上げる『Blues Live』はその際の公演を音源とした、ライヴ・ブルースの名盤である。

 ロバート・Jr.ロックウッドはあの(ロックという音楽の祖父と言っても良い伝説的ブルースマン)ロバート・ジョンソンを義父に持ち、長じてはサニー・ボーイ・ウィリアムスン、B.B.キング、ハウリン・ウルフ、ウィリー・ディクソン、オーティス・スパン、リトル・ウォルター、マディ・ウォーターズなど錚々たるブルースマンと共演してきたシカゴ・ブルースきってのギタリスト(同時にヴォーカリスト)で、50代後半の1972年に発表した初のリーダー・アルバム『Steady Rollin’ Man』が高い評価を受け、それが日本に呼ばれるきっかけとなった。ジ・エイシズはルイス・メイヤーズ(g)、デヴィッド・メイヤーズ(b)、フレッド・ビロウ(ds)の三人で構成された1950~60年代のシカゴを代表するブルース・コンボ。この両者の共演による『Blues Live』は、ブルースという音楽の雰囲気を端的に教えてくれる。

 ミディアム・テンポで快調にドライヴする1曲目「Sweet Home Chicago」、「いかにも歎き歌(ブルース)」といった感じの2曲目「Goin’ Down Slow」や3曲目の「Worried Life Blues」、ラヴ・ソング「Anna Lee」、妙に楽天的な「Feel Alright Again」、義父直伝の弾き語り「Mean Black Spider」、そしてルイス・メイヤーズのリード・ギターが炸裂(本当に上手い)するインストゥルメンタル「Honky Tonk」と様々なタイプのブルース・ナンバーが演奏され、どの曲も出来が良いが、中でも一番聴き応えがあるのは「(They Call It)Stormy Monday」だろう。
 アルバム全体を通してもギターが聴きモノなのだが、この「Stormy Monday」でのギター・プレイは特筆ものである。コード・カッティングで始まるイントロの格好良さ、洒脱で流麗なオブリガート、そしてセンス溢れるソロでの、ルイス・メイヤーズとの絡みから醸し出される緊張感。いったいどうやって弾いているのだろう(この二人による演奏については、かつて黒人音楽の評論家日暮泰文氏が「ギターがたった2本とは信じられない。まるで5~6本あるようだ」と言っていた)。この時点で60近いジジイなのによく集中力が持つものだ。

 ギターの話が多くなってしまったが、張りのあるロックウッドのヴォーカルも実にイイ感じである。60近いジイサンなのにどういうことだろう。やはりアメリカ人は喰っているモノが違うのだろうか。Give Me Chocolate!

 この公演の十数年後に、ロックウッドは再び来日した。東京と京都での公演だったが、当時大学生だった私は喜んでチケットを買って東京の公演を観に行った。ステージに現われたロックウッド翁はもう70代半ばで、ずっと椅子に座ったまま唱い、演奏していた。さすがに『Blues Live』のレベルのパフォーマンスを期待するのは無理というもので、特に声の衰えは隠しようがなかった(東京での公演は、場所は憶えていないが席の指定された劇場で、そのためか観客も全般に大人しく、演奏中ドラマーがしきりに煽っていたがいまひとつ盛り上がりに欠けたのも残念だった。京都はライヴハウスだったらしいので、そちらのほうに行けばまた印象も違っていたかもしれない)。もう10年か15年早く生まれていたら、74年のこのライヴを見られていたかもしれないと思うと残念である。『Blues Live』では(大きな音が聞こえるわけではないが)客席の「熱気」も感じられる。そういう点でも名盤である。

 ブルースやゴスペル、そしてフォーク、ブルーグラスなどの、いわゆるルーツ・ミュージックというのは、(現在のような様々な音響加工技術を用いた音楽とは違って)音も編曲もシンプルで、その趣味を持たない人にとっては単調で退屈、「どの曲も同じに聴こえる」という感想を持つのは必定である。しかし、確実に「その趣味」を持つ人がいて、例えば1950年代にそういう音楽を熱心に聴いていた若者の一人がボブ・ディランであり、ミック・ジャガー、エリック・クラプトン、ロバート・プラントやジミー・ペイジであった。この『Blues Live』を聴いてその格好良さに感応できた人は、「その趣味」の素質があるかもしれない。だからと言って、こういう音楽を熱心に聴けばボブ・ディランやエリック・クラプトンになれるというわけでもないことは、この私を見ればわかるだろうが(泣―Blues!)。